「別れる男に花の名を教えておけ」の代わりを考える
川端康成は「別れる男に花の名を一つ教えておきなさい。花は毎年必ず咲きます」と言ったという。
ロマンチックじゃないか。甘すぎて口の中がじゃりじゃりするくらい。
でも、別れの大半はそんななよなよと美しいものではない。
「週に一度は思い出して大きな魚を逃したことの後悔に身悶えろ」と思う場合もあるだろうし、「頼むから二度と思い出さないでくれ」の場合もあるだろう。
一年に一度がいいってのは川端康成にとっての丁度良さであって、万人向けではない、ということを声を大にして言いたい。抗議する。
じゃあ何教えときゃええのん、というのが今回のエントリーの発端である。
自分を思い出して欲しい頻度ごとに分けていってみよう。
①毎日思い出せ!というメンヘラなあなた
そこまで執着するなら別れるなよ、という言葉をぐっと飲み込み、そんなあなたには毎日見かけるものがいいだろう。例えば好きなトイレットペーパーの種類。
「私この肌触り柔らかな二枚重ねのトイレットペーパーが好きよ。頬ずりしていたいくらい。ねえきっと、二枚重ねのトイレットペーパーを見るたびに私を思い出してね」
彼が立ちションにこだわる人間でない限り、ほぼ確実に毎日トイレに行くだろう。その度にあなたのことを思い出すのだ。
「あいつ、二枚重ねのトイレットペーパーが好きだったなあ…。ちくしょう、あの頃のおれは馬鹿だった。ケチって一枚のペーパーを買ってきたせいであいつを失うなんて」
②週一くらいでもいいや、なあなた
それでもだいぶ頻度高くて地雷臭がするけど、週一くらい思い出してくれれば、なあなたは好きなラーメン屋なんてどうだろう。
「一蘭のオーダーはバリカタで濃いめこってり、白ネギと青ネギはハーフが最高なの」
彼は一人夜の繁華街でラーメン屋の前を通り過ぎながら一蘭が恋しくなり、ふらっと最寄りの一蘭に入っていく。そしてあなたの好きだった固定オーダーをなぞり、もう上げることのないただの壁と化した隣との仕切りを眺める。こうなるとラーメン屋を見かけるたびにあなたを連想するしかない。
一蘭のシステム知らない人はググってください。
③季節ごとに思い出してもらえたらロマンチックだよね、な人へ
わかる。でも全季節に共通することって意外と難しい。そこで季節の変わり目、と言い換えてみよう。ほら、風邪しか思い浮かばなくなった。付き合ってる間、彼が風邪を引いてうなされる時にそっと耳元で「たらこ」とか何とか囁きかけるのだ。彼は風邪を引くたびにたらこのことを連想するようになるだろう。…?
④やっぱり一年に一度がいい!という方
これ思いついた時天才だなって我ながら思ったんだけど言っちゃうね。花の名前とかいいと思います。
ぴゅあぴゅあだった10代の私は律儀に川端康成の言葉を信じて、初めてできた彼氏に「私カーネーションが好きなんだ」と再三伝えた。すると5月上旬に花屋さんにカーネーションが並ぶのに合わせて一輪くれるようになった。
母の日かよ。